傀儡の恋

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 戦場はある意味大混乱だった。
 正確に言えば混乱しているのはザフトだけである。オーブを中軸としたこちら側は最初に指示された役目を粛々とこなしている。
 もちろん、戦場では次々と状況が変わっていく。それを的確に読み取り自分の行動を変更していく力が必要だ。
「やはりその点に関してはこちらの方が上だね」
 あちらにも前の大戦を経験したものは少なくないだろうに、この体たらくは何なのだろうか。
「あの頃の促成栽培の方がましだったはな」
 小さなため息と共に襲いかかってきた敵を一機、動作不能に追い込む。
「あるいは、彼等がこちら側についたからかもしれないね」
 そう言いながらさりげなく視線を移す。その先には白と黒の二機の機体がある。
「そういえば、ディアッカはキラ達とそれなりに親しくしていたね」
 そして、イザークはラクスの信奉者と言っていいくらいのファンだったと聞いている。プラントに残ったクライン派の誰かが彼等に接触をし、説得したとしてもおかしくはないだろう。
 いや、ディアッカがイザークを説得したのかもしれない。
 そちらの方が可能性が高いのではないか。
 もっとも、今はどうでもいいことだ。
 重要なのは彼等が自分たちに協力をしてくれていると言うことだけだろう。
「……キラはどこかな?」
 心配はいらないとわかっていても気になってしまうのは惚れた弱みか。
 そんなことを考えながら周囲を確認する。
 まさにその瞬間だ。自分が乗り込んでいるのとよく似たシルエットの機体を発見する。
「あれは……間違いなくレイだろうね」
 あのシステムを使える人間はそういない。あちらでは彼ぐらいだったと思う。
「ならば、私が相手をしてやるべきなのだろうか」
 キラの邪魔をさせないためにも、とそう続ける。彼は《自分ラウ・ル・クルーゼ》のことで彼を恨んでいるのだ。間違いなくこの機会に自分の復讐を完遂しようとするだろう。
 それが意味がないと知っているはずなのに。
 知っていても、止められないのか。かつての自分のように、とラウはため息をつく。
「《私》はあの結果で満足していたのだがね」
 言葉と共にドラクーンを切り離す。
「何よりも、復讐はむなしいよ。その後に生き残ってしまうなら、余計に」
 自分も含めたすべてを壊すつもりでならばそうでもないが、とつぶやいたのは自分の経験からだ。
 それでも、とラウはつぶやく。
 自分はすぐにキラのそばに行けた。だから狂わずにすんだのではないか。
 だが、彼等はどうだろう。
 この戦い、ザフトが勝ったとしても遠からずレイの命は潰える。その時にあの男がどうなるかがわからない。
 だからこその切り札だ。
 それを使う前に、連中がこちらの話に耳を貸すようにさせなければいけない。
「そのためのきっかけになってもらうよ」
 もちろん殺しはしない。それが逆効果だとわかっているからだ。
 適当なところで捕縛するしかない。
 それが可能か。心の中で自分にそう問いかける。この機体の性能を十二分に発揮できるなら可能だ、とすぐに答えが出る。
「手加減はしない」
 そうつぶやくとラウはまっすぐにレイのものと推測した機体へと己のそれを移動させていった。

 ギルバート・デュランダルは刻々と届く情報にいらだちを隠せなかった。
 数では圧倒的にこちらが多いはず。それなのに敵ではなくこちらの方の戦力が削られていく。
 いったいどこで読み違えたのか。
 心の中でそうはき出したときだ。
「デスティニー、ロスト!」
「レジェンド、ロスト!」
 信じられない情報が耳に届く。
「……まさか……」
 あの二人が敗れることがあるとは思ってもいなかった。それとも、何か別の要因があるのか。
「だが、私にはまだレクイエムがある」
 あれを使えば、とそうつぶやく彼の表情を目にする者は誰もいなかった。

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最遊釈厄伝